AVENと海外のアセクシュアル情報を日本語で紹介するブログ—※Asexual はエイセクシュアルと表記

エース当事者が運営するブログです。AVEN(エイヴン)—The Asexual Visibility and Education NetworkのHPに掲載されているFAQやリソースを和訳して転載しています。和訳は、エイヴンのプロジェクトチームに承認されています。(2022) / その他エイセクシュアル(アセクシュアル)に関する情報を投稿します。 ※記事の無断転載はご遠慮ください。

エイセクシュアルとメンタルヘルス問題

エイセクシュアルとメンタルヘルス問題

注意:性行為に関する言及あり。

 

エイセクシュアルの人々は、LGBTQではない人々に比べて、精神的ストレスによる苦痛を感じるパーセンテージが高いと報告されている。
しかし、他人に対して性的に魅力を感じないことや、性欲の低さがその要因だという主張には信憑性を疑いたくなる。性交や自慰がなくとも、体を健康に保つことはでき、生活の中にそれらがなくとも、セクシュアルの人々と同じくらいか、それ以上にQOLが満たされている当事者もいる。

他方で、性的アイデンティティを自認する以前から慢性的なメンタルの問題を抱えているエイセクシュアルの当事者もいる。エース・コミュニティ内において、精神疾患発達障害を抱えている当事者のパーセンテージは高い。

 

前置きした上で、ここで重点的に述べたいことは、海外のメンタルヘルス系情報サイトで頻繁に目にする以下のような指摘について。

 

エイセクシュアルの人々の心理的苦痛の割合が高いのは、精神的に病気であるからではなく、エイセクシュアリティの社会的理解とサポートが欠けているからです。

https://blogs.iu.edu/kinseyinstitute/2018/04/13/asexuality-sexual-orientation/

 

実際、エイセクシュアリティのビジビリティ(可視化)と問題意識を高めるために、アクティビストやコミュニティ内からは研究・実態調査の推進を求める声が高まっている。それでもなお、当事者のメンタルヘルス問題に焦点をあてた研究が著しく少ないという。(cf.1) これは、エイセクシュアルの人々が、その存在を認知されることなく、社会の見えないところで危機にさらされていることを意味する。

課題は、成人に限ったことではない。エイセクシュアル・スペクトラムの青少年は深刻なアイデンティティ・クライシスに立たされている。
2020年の米国におけるLGBTQ青少年メンタルヘルスに関する調査データによれば、エイセクシュアルの若者はLGBTQ全体の中でも、うつ病、不安障害の割合が高いという報告があった。(cf.1)
また最近の質的研究において、エイセクシュアルの若者たちは、他の同世代が性的関心を持ち始めた頃から、「常に他人と違う」と違和感を覚えているという。加えて、「エイセクシュアリティ」という言葉を聞いたことがない人は、エイセクシュアル・コミュニティに参加している人よりも孤立を抱え、悩み混乱していると示唆されている。(cf.2)

 

こうした、社会がエイセクシュアルを容認できないでいる現状の背景のひとつには、「すべての人が性的な経験をするはずだ」という社会通念(sexual normativity)が世間に浸透していることがあげられる。

エイセクシュアルの人々は、既存のセクシュアルな社会規範に適合しなければならないという圧力を経験している。最近は、SOGIハラスメントやモラルハラスメントへの対策が流布されているが、「エイセクシュアルとはなにか」という啓発が伴わなければ本末転倒であろう。当事者への知識がないがゆえに、他者からエイセクシュアルではなくノンセクシュアル性的指向性を含意しない、禁欲および個人の価値観で性交に従事しない人々、だと誤解されているケースもある。(なお、海外ではノンセクシュアル性的指向と見做されていない。日本国内では両者が混在しているのが実情。)

エイセクシュアルは、禁欲主義や独身至上主義とは無関係であり、選択の余地がない。個人の価値観によって、ボディータッチやスキンシップを拒んでいるわけではない。

 

 

 

・・・

参考資料:
1.  2020 Trevor Project survey(link is external
2. Yule-Brotto-Gorzalka-2013-Mental-health-interpersonal-functioning-in-self-identified-asexual-men-women-3133.pdf 
https://blogs.iu.edu/kinseyinstitute/2018/04/13/asexuality-sexual-orientation/    
https://www.thetrevorproject.org/survey-2022/assets/static/trevor01_2022survey_final.pdf 
https://www.healthline.com/health/what-is-asexual#takeaway 
Asexualnon-sexualの識別: https://wikidiff.com/asexual/nonsexual     

 

エイセクシュアル研究とAVEN

 

AVEN 世界最大のエイセクシュアル(アセクシャル)オンラインコミュニティーについて

AVEN(The Asexual Visibility and Education Network、エイセクシュアル可視化教育ネットワーク)は、2001年にサンフランシスコで、David Jay(デイヴィッド・ジェイ)によって設立された。
①エイセクシュアルを正当な性的指向として認めさせること
②エイセクシュアルとアライの支援コミュニティを構築すること
という明確な二つの目的のもとで活動している。

 

 

AVENが訴え続けていること

今日のエイセクシュアリティ性的指向に加えられることになったのは、AVENのアクティビストたちによる功績といっても過言ではない。
エイセクシュアルが神話だといわれていた時代に、彼らはそれがセクシュアル・オリエンテーション性的指向)のひとつであり、性的アイデンティティであることを叫び続けてきた。

・エイセクシュアルは、正常な状態であり、病や障害ではない。(性機能障害ではない。)
・エイセクシュアルであることは、選択ではない。(レズビアンの人が自分がレズビアンであることを選択できないことと同じである。)
・エイセクシュアルの人々は、性的欲求と性的魅力を分けている。(無性愛者は自慰行為をするため性欲を解放したい欲求を持っているが、それは誰に向けられたものでもない。)
etc…

 

アクティビスト達はコミュニティを拡大するとともに、医療関係者や学術研究者への訴えも強化した。特に、「エイセクシュアリティは性機能障害ではない」という文脈が正式に精神医学の世界で受け入れられたのはAVENの大きな成果のひとつとして知られる。

 

 

AVENは、エイセクシュアル研究への協力を積極的におこなっている。例えば、研究者や研究機関はサイトを通じて研究依頼を申し込むことができる。統計のための調査を頼んだり、インタビューの対象者を募集することもできる。以下は、AVENが研究機関向けに提示している声明文の一部。

 

AVENコミュニティは、エイセクシュアルに関する研究を推進することに大きな関心を寄せており、研究者の仕事を支援するためにできることをしたいと考えています。コミュニティ内のメンバーの健康を確保しながら、研究プロジェクトを促進するために、私たちは研究者にいくつかのルールを守っていただくようお願いしています。

https://www.asexuality.org/en/topic/153382-rules-for-researchers-and-students/

 

AVENは研究者に対して注意事項や倫理指針、ポリシーの確認を怠らない。研究・調査依頼を申し込む者は、AVENを研究に利用する際の規則が明記されたページを一読することが推奨されている。


上述したようにAVENは、エイセクシュアリティの当事者と諸研究機関との間にまたがって研究発展の橋渡し役もになっている。米国の大手心理学系ジャーナル、『サイコロジー・トゥデイ』は次のように評価している。

 

非科学的なコミュニティが、科学の進歩を鼓舞する上でこれほど重要な役割を果たすのは異例なことだ。

 

Bella DePaulo Ph. Psychology Today, September 5, 2016

 

参考資料
AVENについて
https://www.asexuality.org/?q=general.html
 https://www.stonewall.org.uk/about-us/news/aven-–-asexual-visibility-and-education-network

AVENが研究者向けに提示しているページ
http://www.asexuality.org/?q=research.html

Psychology Today ; 1967年に創設されたアメリカの心理学(主に心理療法の情報源)ジャーナルサイト。近年アセクシュアルに関する投稿が増えている。
https://www.psychologytoday.com/intl/archive?search=Asexual&undefined=Search+submit

 

 

エイセクシュアルとDSM-5

エイセクシュアルは性機能障害ではない。〜DSMに明記されるようになった経緯〜

注意:性行為に関する言及あり。

 

エイセクシュアルは、性機能障害の状態ではない。

上述のことは、精神医学界の権威書—DSMも認めている。DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)とは、米国精神医学会の精神障害の診断と統計マニュアルのこと。世界中の医師や精神医療関係者が、精神疾患を判断する際に使用している点で極めて重要な本だ。現在の日本の精神医療の現場でも診断を下す際に使用されている。バイナリ以外の人々は考慮されていない点は注意。

DSMに記述がなされたことは、エイセクシュアルの人々にとって非常に重要な出来事である。ここではAVENメンバーのTumblrの投稿を参考にして、エイセクシュアルが明記されるようになった経緯をまとめた。

 


・性欲がない。
・セックスをしたくない。

このような主張は、DSMによって低活発性性欲求障害(HSDD)と呼ばれる性機能障害のひとつと考えられてきた。性交の苦痛や対人障害とあいまった性的欲求の低下として診断が下されていた。(1994年からDSM第4版が発行された2000年ごろまでのこと。)

そのような診断基準は長らくエイセクシュアルの人々を苦しめてきた。

これに端を発したのが、当時、エイセクシュアル・コミュニティの中心的存在だったAVEN(エイヴン)。5名で構成されたAVEN・プロジェクトチームは、エイセクシュアリティについてのレポートをDSM-IV-TR審査委員会へ提出した。レポートの詳細は不明だが、主にエイセクシュアルに関する学術論文、心理学者へのインタビュー、臨床医がどのようにエイセクシュアルを判断すべきかなどの報告とともに、当事者の声明文が添えられたという。紙幅にしておおよそ78ページ。これを受理し、吟味したDSM審査委員会は、2013年にエイセクシュアリティについて言及を書き加えた。

DSM-5には、エイセクシュアリティに関する記述が追記されている。
しかし、その内容は少々トリッキーなものだった。

 

エイセクシュアリティを自認し、無性愛によって性的欲求の低さを説明できている場合、性機能障害(Sexual Dysfunction)の診断は下さない。

DSM-5 625.89 (F52.0) 


またこうも書かれてあった。

生涯にわたって性欲がないことが、エイセクシュアリティを自認することでよりよく説明できるのであれば障害の診断は下されないだろう。

DSM-5 302.72 (F52.22)

 

さて、上述の診断基準がどの程度の意味をなすのか。つまるところそれは、まったく臨床医の認識に委ねられている。通常、患者と医療関係者とのあいだには、クライアントに対して継続的な治療を約束することで儲けを得る、というサイクルが存在している。
精神科医にとって、上記のエイセクシャリティの自認はどれくらい考慮できるものなのか。エースコミュニティではしばしば、エイセクシュアルの理解に協力的でない臨床医のほうが多いとすら言われている。 
医療関係者達によって慎重に扱われるべきなのは、エイセクシュアルの人々だけではない。エイセクシュアル・スペクトラムに属するすべての人が対象とされるべきだ。グレイセクシュアルやデミセクシュアルの人たちに性機能障害のラベルを貼らず、当事者のアイデンティティを尊重し保証するためには医療関係者とクライアントの対話が重要になってくる。

 

DSM-IVにおけるエイセクシュアルの追記を受けて、AVENのプロジェクトメンバーは、「精神科医の診断がエイセクシュアルの人々に大きな影響を与えることには変わりない」と語っている。加えて、DSMの記述より深刻な問題は、「セックスへの欲求の低い人々との臨床的対話の少なさ」だと指摘している。

 

※参考資料としてAsexual Archive(Aセクシュアリティについての資料が保管されているサイト)のページを抜粋。最後にそのページに記されていた筆者のメッセージを引用する。 

Asexuality in the DSM-5 Asexuality is OFFICIALLY not a disorder, according to the APAwww.asexualityarchive.com

 

私(当事者)は、"この本にエイセクシュアルが載っているからエイセクシュアルであることは問題ない "と言っているのではないことをはっきりさせておきたいと思います。
私たちエイセクシュアルのことがこの本に載っているのは、エイセクシュアルがまったく問題ではないからなのです。

 

 

 

執筆参考資料;https://rotten-zucchinis.tumblr.com/post/125907513485/how-the-dsm-sort-of-came-to

AVENにおけるエイセクシュアリティの公式定義

AVEN「エイセクシュアリティの公式定義」の変更について(2021)

 

AVENのHP上の定義がスタンダードに引用されているが、それは必ずしもエイセクシュアリティの普遍的な定義という意味ではない。創設者のデイヴィッド・ジェイをはじめ、現在理事のヤスミン・ブノアもそのように注意を呼びかけており、定義について頻繁にAVENメンバーたちと議論を交わしてアップデートを続けている。2021年には、定義についての再検討が大々的に行われた。議論の結果の大筋は以下の引用の通り。

 

AVEN理事会は、ホームページのエイセクシュアリティの定義を 
「エイセクシュアルとは、性的な魅力を経験しない人のこと」("An asexual person is a person who does not experience sexual attraction." )から、「エイセクシュアルとは、性的な魅力をほとんど、あるいはまったく経験しない人のこと」(“An asexual person is someone who experience little or no sexual attraction." )に更新することを決議しました。

長い間、私たちはエースとその経験のスペクトラムを受け入れてきたコミュニティであり、それに応じて、私たちの最も公的な定義を更新することは理にかなっています。

ホームページの定義は、あくまで「Aセクシュアリティの公式な定義」であり、「定義」ではありません。それは、遠くから見ている人たちが、その周りに集まってくるための旗(フラッグ)であって、最終的にはエースとスペクトラムの人たち一人ひとりが、自分の経験に合う言葉を見つけるのであり、この言葉に自分の経験をあてはめるべきではありません。

 July 7, 2021 in Announcements.

https://www.youtube.com/watch?v=EouWUIU5FnM

 

 

 

AVEN(エイヴン)の創設者、デイヴィッド・ジェイ

デイヴィッド・ジェイ—エイセクシュアル活動家が語る『つながり』

 

David Jay —American asexual activist


デイヴィッド・ジェイは、アメリカのエイセクシュアル活動家である。性的魅力を感じない人々の世界最大のオンライン・コミュニティを代表する、AVEN(Asexual Visibility and Education Network)の創設者である。エイセクシュアリティは選択ではなく、性的指向であると主張している。

 

ジェイは『エイセクシュアル』を発明した人物ではない。彼は、18歳の時に仲間の無性愛者たちとその組織を創設した(2001)。そして、組織の代表としてスピーチの場に立つようになった。
まだ、エイセクシュアルへの理解がほとんどなかった時代のこと。ジェイが組織の顔として選ばれた理由のひとつは、彼自身が性差別や人種差別によって排除されてきた無性愛者にあてはまらなかったからだという。
彼は、白人のシスジェンダー(出生児の性別と性自認が一致していること)で合法的な家族のもとに生まれた。これがトランスジェンダーだったり、年配者や女性だったり、有色人種の人々ならば話は別だ。すなわち、当時彼は、アメリカ社会でも権威を持って話すことが許され、信頼できるスピーカーとして紹介されたのである。

そのデイヴィッド・ジェイが、2012年にideacity(カナダに拠点置く組織が主催するカンファレンス)で行なったスピーチがある。YouTubeで視聴できる。スピーチの中でジェイは、Aセクシャルの人々にもセクシャルな人と同じようにつながりの欲求があることに着目しつつ、『つながり』と人間関係について考察している。

 

一部抜粋して紹介。注意:性行為に関する言及あり。

 

David Jay – Asexuality | ideacity www.ideacity.ca

 

では、とても普遍的な人間の経験についてお話したいと思います。『つながり』を見出そうとする葛藤についてです。

あなたが、誰かと素晴らしい深い会話をしたときのことを思い出してください。それが自分の体の中でどんな感じだったか考えてみてください。他の人と関わっているとき、それがどんな感じだったか考えてみてください。 
私が『つながり』と言ったのは、そういう意味です。そして、私はコミュニティにおけるつながりを求める闘いについて話そうと思います。初めて聞くかもしれませんが、私のようなエイセクシュアルを自認する人たちのコミュニティのお話です。 

”エイセクシュアル”とは、性的魅力を感じない人のことです。 

考えてみれば、セックスが大好きな人もいる。セックスが好きな人もいるけど、それほどでもない人もいる。そう考えると、全く関心がない人だっているということは理にかなっています。全く性的なことに興味がない人もいるはずです。私たちのコミュニティについて理解すべき重要なことは、私たちも他の人たちと同じようにつながりを求めているということです。ただ、そのつながりを性的なやりかたで表現したいという願望がないだけなのです。 

 

 私たちのコミュニティ活動が始まったころ、Googleに【アセクシュアル】という言葉を入力する人が何百人、何千人といたのを覚えています。そして、多くの人々がこのコミュニティを見つけたのです。多くの人々が「自分と同じような人たちを見つけた」という、圧倒的な達成感を味わいました。皆、それまで世界で孤独を感じ、自分が壊れているように感じていたのです。でも、自分と同じような人たちが集まるコミュニティを見つけたことで 、「悩んでいたのは自分だけではなかった」と思えたのです。

 

当時、私の性的な友人たちは、エイセクシュアルのコミュニティ活動を見て少し困惑したようです。私がコミュニティについて話すと、彼らの反応はこんな感じでした。
「つまり、あなたたちはセックスに興味がないだけなのに、何を偉そうに言っているの? 家にいるだけでいいんじゃないかな。なんで外でそんなコミュニティをつくる必要があるの? セックスに興味がないって、便利だと思うよ。どんな葛藤があるっていうの?」
このような質問に答えるために、あなたの高校時代を思い出してほしいと思います。友達や恋人と呼ばれる人たちとたくさんつながっていて、その人たちと多くの時間を過ごしていたかもしれません。その人たちは、あなたが深く惹かれる人たちであったかもしれません。もっと近い関係になりたいと思ったかもしれません。そのような時、私はセクシュアリティを伴う関係を持ちたいと思わなかったのです。もしあなたがセクシャルな人であれば、これには違和感を感じ、混乱するかもしれません。
セクシュアリティを伴う関係は、ある意味で祝福され優先的に語られてきました。非セクシャルな関係はそうではありません。

 

そうして、私たちエイセクシュアルの人々は、他の人とのつながりを得ることができないのではないかと不安になります。これは、私たち全員が絶望していることです。
きょう、私がこの話をしたのは、エイセクシュアルの人々が集まりコミュニティが団結した理由を説明するためです。私たちの『つながり 』を求める闘いは、既存のセクシュアリティの文化に絡め取られているという事実と関係があるのです。これは、エイセクシュアルの人たちだけに言えることではありません。社会に飲み込まれているマイノリティは沢山あります。この点で、聴衆の中には、今の私の話に軍配を上げることができる人々がいるはずです。

 

ところで、私はセックスは素晴らしいと思います。それを楽しむ人々にとって、セクシュアリティは素晴らしいものだとも理解しています。でも、今はまだうまく表現できない『つながり』という概念は残されているのです。『つながり』というのは、私の中にあるのではなく、他の人の中にあるのでもなく、私たちの間に存在するものです。私は、ある人に対してひとつの感情を抱くことができます。そしてその人との関係についてはっきりとした愛情を抱くことができます。 

 

エイセクシュアルについてもっと考えてみてください。私たちのつながりを求める闘いが、セクシュアリティ文化に抑圧されていることを忘れないでください。そして、エイセクシュアルをセクシュアルな文化から切り離すには、双方がどのように作用しているのかを理解する必要があるということです。
私たちは、性的なものであろうと非性的なものであろうと、それらが同じであることを認識する必要があります。それらが成長する構造を探る必要があります。そうすれば、新しい種類の『つながり』のための新しい脚本を書くことができます。それは可能です。そうすれば、私たちが共有する『つながり』のための闘いは、ほんの少しだけ楽になるかもしれないと信じています。そして、そうなった世界がどのように見えるのかを想像してみてください。 

ideacity/David Jay, 2012.

 



ジェイは現在、北カルフォルニアで「共同親("co-parent")」として一人の娘を育てている。娘の生物学的両親は、気候学者の父親と非営利団体で働く母親である。三人親の養子縁組はカリフォルニア州によって法的に認められている。この家族の形態は新しく稀なものではないが、クィアコミュニティの多様性を後押しするアイディアとして近年注目されている。

 

性的指向と恋愛的指向を分けて考える

注意:性行為に関する言及あり。

 

エイセクシュアルの一般的な定義は、「他者に性的な魅力をほとんど(あるいはまったく)感じない人」のです。そして、「魅力」にはいくつかの種類があると考えられています。いくつあるのかについては不特定ですが、代表的な「魅力」は4つあります。

 

・性的魅力(Sexual attraction)
誰かと性的に触れあいたいという欲求です。端的に、性行為を望むことですが、相手の肉体的なセクシーさに心惹かれることも含みます。エイセクシュアルは、この性的魅力をほとんど感じない人を指しますが、ほかの魅力を感じることはあります。

 

・恋愛的魅力/ロマンティックな魅力(Romantic attraction)
他者と恋愛関係になりたいと望んだり、相手に強い恋心や愛情を寄せることです。エイセクシュアルの人が誰かに恋愛的魅力を感じている場合、性的なコミュニケーションを抜きで恋愛がしたいと望んでいます。その場合、性的指向と恋愛的指向を分けて考えること(スプリット・アトラクション・モデル)でうまく自分を説明することができます。

 

・美的魅力(Aesthetic attraction)
相手の外見に惹かれることです。恋愛感情や性的な欲求は必ずしもともないません。例えば、あるアイドルやモデルの容姿に強く惹きつけられた経験はないでしょうか。相手の性格やバックグラウンドに関係なく見た目を好きになることです。

 

・感覚的魅力(Sensual attraction)
性行為につながらない、愛情のこもったボディタッチ、ハグ、キスなど、誰かと身体的な接触を持ちたいと感じることです。エイセクシュアルの人がハグや手繋ぎを望むことはなにもおかしいことではありません。なぜなら性的魅力と感覚的魅力は別ものだからです。人によっては、キスはかなり密接なコミュニケーションで、性的と捉える人もいるかも知れません。ですが、キスも感覚的魅力に含まれると考えられています。この感覚的な魅力で重要なポイントは「性行為につながらない」というボーダーラインがある点で、性的魅力と別であることです。

注:上記以外にも魅力は存在します。ここでは、もっとも引用される4つを取り上げました。

 


魅力」という言葉を少しだけ掘り下げてみます。英語では、アトラクション(Attraction)といいます。ほとんどの英和辞書で「引き付けること・もの」「魅力」「引力(物理学)」などの意味が書かれているはずです。遊園地の乗り物を「アトラクション」と呼んだりしますが、「楽しそう」「乗ってみたい」など人を引きつけているものだと考えれば合点がいきます。エース・コミュニティ内では、人と人を引き合わせる心理的または感情的な力のようなものと定義されます。

 


上記の恋愛的魅力の説明で「性的指向と恋愛的指向を分けて考えることでうまく自分を説明できる」と述べました。これをやる方法として「スプリット・アトラクション・モデル」という便利なものがあります。


【スプリット・アトラクション・モデル/通称SAM】とは何でしょうか?(略称のSAMはサムと発音します。)


SAMとは、性的指向と恋愛的指向を分けて考える方法のことです。

SAM を使用することは必須ではありませんが、エース当事者は自分自身をうまく説明するために役立つと考えている人が多いです。

 

性的指向や恋愛的指向の「指向」は、英語で「オリエンテーション(orientation)」と言います。SAMはオリエンテーションをより具体的に説明する方法として、エースのコミュニティで誕生しました。

 

エイセクシュアルの人も恋愛をします。SAMを使用すると、「性的な行為に魅力は感じないけれど、ロマンティックな雰囲気は感じたい」ということや、「恋愛関係になりたいけれど、性行為への欲求はない」ということを伝えることが可能です。

 

例えば、次のような言い方ができます。

・エイセクシュアル(=性的指向)で、ヘテロロマンティック(=恋愛的指向/ 異性に恋愛感情を抱く)

・エイセクシュアルで、ホモロマンティック(同性に恋愛感情を抱く)

・エイセクシュアルで、バイロマンティック(複数の性別に恋愛感情を抱く)

・エイセクシュアルで、アロマンティック(どの性別にも恋愛感情を抱かない)

 

SAMは、ほとんどエース・コミュニティで使用されていますが、ほかのLGBTQIA+のコミュニティでもしばしば用いられます。エイセクシュアルに限らず、「性的指向と恋愛の指向が同じではない」という人にとって、その人をよりよく説明するのにSAMは役に立ちます。例えば、ゲイでありながらバイロマンティックという人もいます。性的な関心と恋愛対象への関心は必ずしも一致しているとは限らないのです。


最後に
SAMの考え方は普遍的なものではありません。使用はあくまで任意です。現に、エイセクシュアルのコミュニティ内であっても使用しない人もいます。使用しない人が非難されたり、攻撃されることはありませんまた、既存のラベルのどれに自分は当てはまるのだろう、と無理に型にはめようとすることも勧められません。

 

 

参考資料:
http://www.asexuality.org/?q=overview.html
https://aroacefaq.tumblr.com/post/143810110365/the-split-attraction-model-what-is-it
https://lgbtqia.fandom.com/wiki/Split_Attraction_Model

エイセクシュアルとは

『エイセクシュアル(Asexual)』とは性的指向のひとつです。

 

LGBTQIA+のAはエイセクシュアルのエイです。

※日本では、「アセクシャル」、「アセクシュアル」とも呼ばれています。現時点では、名称にゆらぎが生じており、様々な呼ばれ方をされています。このブログでは、最も英語の発音に忠実な「エイセクシュアル」を採用しています。

エイセクシュアルとは、性的な魅力に惹かれたり、性的な関係への欲求を本質的に感じていない人のことです。

例えば、相手に恋愛感情があって、デートをしたい、恋人同士でいたい、などの気持ちがあったとします。その時、もし性的なコミュニケーション(基本的に性行為を指します)をしたくないと感じた場合、その人はエイセクシュアルかもしれません。

どの程度の性的な接触までOKなのかは、人によって差があります。

あるエイセクシュアルの人は、キスができます。

その一方でキスに拒絶反応があったり、ハグや手をぎゅっと強く握り合うこともしたくないと感じるエイセクシュアルの人もいます。

注意していただきたいことは、エイセクシュアルは、心の病気や潔癖症、性嫌悪や性機能障害ではないということです。

このことは、精神医学の分野でもしっかり証明されています。(少し難しい話しですが、精神医療で医師が使用している診断基準のマニュアル("DSM"と呼ばれる本の第五版)にエイセクシュアルが病ではないことが書かれてあります。)



自分の周りにエイセクシュアルの人は、どれくらいいると思いますか。

エイセクシュアルは、人口のおおよそ1%といわれています。100人のうち1人はエイセクシュアルの人だということになります。

エイセクシュアルである事が原因で人生が豊かになることも悲劇的になることもありません。受け止め方は自認した本人次第ですが、世界中の多くのエイセクシュアルの人が結婚して子供を持っています。

コミュニケーションとしての性行為はしないけれど、子供がほしくて行為する当事者は珍しくありません。エイセクシュアルとは、性的なトラウマや心の問題で性行為が出来なくなっている人たちのことではありません。

また、夫婦関係を持たず大切な人とパートナー関係を築いて、子供も持たず支え合っていく生き方を選んでいる人たちもいます。



世界中には、エイセクシュアルのコミュニティが沢山あります。ほかの性的少数者と同じように正当な性的指向なのです。

とくに、アメリカで発足したコミュニティに「エイヴン(AVEN)」という団体があります。世界最大のエイセクシュアルのオンラインコミュニティです。こんにちのエイセクシュアルの定義や啓発を世界中に広めてきた団体として知られています。

※エイヴンの正式名は“「The Asexual Visibility and Education Network (エイセクシュアルの可視化と教育ネットワーク)」といいます。世界最大のオンライン・エイセクシュアル・コミュニティと、エイセクシュアルに関する膨大な資料のアーカイブを運営しています。