AVENを紹介するブログ—その他Asexualityについて

エース当事者が運営するブログです。AVEN(エイヴン)—The Asexual Visibility and Education NetworkのHPに掲載されているFAQやリソースを和訳して転載しています。和訳は、エイヴンのプロジェクトチームに承認されています。(2022) / その他エイセクシュアル(アセクシュアル)に関する情報を投稿します。 ※記事の無断転載はご遠慮ください。

エイセクシュアリティ(アセクシュアリティ)がようやく医学的スティグマから脱却しつつある

『エイセクシュアリティ(アセクシュアリティ)がようやく医学的スティグマから脱却しつつある〜性欲低下の症状と性的魅力の一貫した欠如を区別することが、医師やセラピストにとって非常に重要である理由を、エイセクシュアリティに関する新しい研究が示している〜』(Scientific American, 2024年1月1日)の記事の和訳。

 

 エイセクシュアリティに関する新しい研究は、性欲低下の現象と性的魅力の欠如を区別することが、医師やセラピストにとって非常に重要であることを明らかにした。

 大学院時代、ミーガン・キャロルはゲイな のではないかとよく聞かれた。社会学の学位論文は、ゲイの父親のコミュニティにおける不平等に関するものであったため、研究参加者たちは、キャロルがゲイであることをどう自覚しているのか知りたがった。「わたしはこう答えた。よくわかりません。いろいろ複雑なんです」。当時の彼女にとっては、それが最も真実に近い答えだった。彼女は高校時代、男子にも女子にもときめきを感じ、男性と交際したこともあった。だが、セックスに誘われてもそうしたことはなく、関心が持てなかった。友人たちは、ふさわしい人、つまり彼女の心に火をつけてくれるような人が現れればいいのだと断言した。

 18 歳になっても性欲が湧かなかったため、キャロルは単に性欲が低いだけかもしれないと考え、その理由を探した。避妊具が原因かもしれないと考えた彼女は、看護婦に相談した。それからキャロルは、うつ病の治療のために飲んでいる薬のせいではないかと考えた。以後12年間、彼女は複数のセラピスト、精神科医、医師を訪ね、さまざまな抗うつ薬を試した。その中には、頻脈、つまり心拍数が速くなるような、あまり一般的には処方されない薬も含まれていた。結局、彼女は臨床試験で性欲に効果が見られなかった薬にたどりついた。

 こうした数年間の臨床試験を通じて、キャロルの性欲(性的刺激と解放を求める生理的欲求)はゆらぎを繰り返した。しかし一貫していたのは、彼女の性欲が他の人に向けられることはほとんどなかったことだ。

 2016年、キャロルはエイセクシュアリティに関するフェイスブックの投稿を偶然見つけた。性的魅力をほとんど感じないと定義されるこの言葉を聞いたことはあったが、自分に当てはまると感じたことはなかった。その後、キャロルは、誰かと感情的な結びつきを深めて初めて性的魅力を感じるというデミセクシュアリティについて書かれたコメントを読んだ。

 この考え方は、人間であることの意味に関する文化的な前提を覆すものであるため、エイセクシュアルの人々が自分のアイデンティティを認識することはもちろん、受け入れることもしばしば困難である。カナダのウィンザー大学のエイセクシュアル・ジェンダーセクシュアリティの研究者であるCJ・シャシンは、「彼らの存在そのものが、ある意味で社会規範に反している」という。キャロルは、自分がエイセクシュアルであることを自覚した後も、医師を訪ねて薬を試してみたが、最終的には「自分は自分である」と受け入れた。

 過去20年間の心理学的研究によって、エイセクシュアリティは障害としてではなく、同性愛や異性愛と同じような性的指向として分類されるべきであることが知られている。しかし文化的認識と臨床医学の両方が、これに追いつくのは遅かった。学術研究者たちがエイセクシュアリティを健康問題の指標としてではなく、人間としての正当なあり方として捉え始めたのは、ごく最近のことだ。

 生物学では、「無性(asexual)」という言葉は通常、バクテリアやアブラムシのように性交渉なしで繁殖する種のみを指して使われる。だが、子孫を残すために交尾を必要とする種の中にも、その行為に駆り立てられるようには見えない個体もいることがわかってきた。

 この傾向は人間のアセクシュアルに類似しており、最近まで医学文献で言及されることはほとんどなかった。ドイツの先駆的な性科学者マグナス・ヒルシュフェルドは、1896年に出版された小冊子の中で、性欲のない人々を "anesthesia sexualis "と呼んだ。1907年、初期の同性愛者の権利活動家であったカール・シュレーゲル牧師は、"同性愛者、異性愛者、両性愛者(そして無性愛者)"に対して「同じ法律」を提唱した。性科学者アルフレッド・キンゼーが1940年代に性的指向の尺度を考案したとき、彼は、社会性的接触や 性的反応をまったく示さない回答者のために "カテゴリーX "を設けた。

 世界中のエイセクシュアルの人々がお互いに出会い始めたのは、インターネットが登場してからのことである。彼らは2000年代初頭に共通の言語を確立し始め、概念やラベルを草分け的に発展させることでエイセクシュアルの展望を描いていった。自らを「エース」と呼ぶ彼らは、性的魅力とロマンチックな魅力をそれぞれのスペクトラムに分ける傾向があった。エースはセックスに拒否反応を示すこともあれば、セックスに中立的であったり、セックスに好意的であったりする。性欲の強いエースもいれば、そうでないエースもいる。性欲の強いエースもいれば、自慰行為をしないエースもいる。エース・コミュニティーのメンバーは、性的魅力、時には恋愛的魅力が相対的に欠けていることで統一されている。

 しかし当時、アメリカ精神医学会の『精神障害の診断と統計マニュアル』(DSM)によれば、エイセクシュアルであることは精神疾患の兆候であると考えられていた。性欲の低下によって苦痛を感じているという人がいれば、医師はその人を性欲減退性障害(HSDD)と診断することができた。また、パートナーが性欲減退に動揺している場合も、たとえ本人が正常であったとしても、診断の対象となりうる。言い換えれば、カップルの中で「セックスが十分に好きでない人が障害を持っていた」ということだ性欲のレベルは、ホルモンレベルの変化や精神的な健康状態など、医学的な懸念の原因となる場合もそうでない 場合も含め、多くの理由により生涯を通じて変動する可能性がある。性欲の低下について大きな苦痛を感じている人がいれば、診断と治療が有益な場合もある。しかし、エイセクシュアルの人々は、他人に性的魅力を感じないことを介入を必要とする障害ではなく、比較的安定した指向として経験する傾向がある。そのため、2000年代後半にDSMの改訂版の作成が始まったとき、ジェイとAVENの他のメンバーは、DSMを作成している学者たちにこのことを明確に伝えようとした。「少なくとも、私たちに関するデータを解釈する前に、私たちが自分自身についてどう考えているかを研究者に理解してほしかったのです」とジェイはいう。AVENチームは文献調査を行い、7名の研究者(そのほとんどが心理学者)にインタビューを行った。

「エースのコミュニティは親密さの基盤を奪われ、自分たちでそれを作り出さなければならなかったので、多くの人たち、特にノンクィアの人たちが関心を寄せるようになりました」とジェイはいう。彼は3人家族で子供を育てており、2020年のアトランティックの記事で話題になった。ジェイは現在、エースであろうとなかろうと、文化的規範にとらわれない関係をどうやって築くかについて、人々に助言している。

 キャロルは現在、カリフォルニア州立大学サンバーナーディーノ校の社会学者であり、エースのためのリソースについて調査している。キャロルの最新の研究のいくつかは、エイセクシュアルや アロマティックな人々が中流階級の住宅制度にアクセスする際にしばしば直面する困難について考察したものである。

 個人的にも仕事上でもエース・コミュニティに居場所を見つけたキャロルは、今では、彼女を医院に駆り立てた苦悩をそれまでとは異なる形で受け止めている。セックスに興味がないことが問題なのではなく、問題は世界のその他の部分なのだと。彼女は「心の奥底で」わかっていたに違いない。

 

2024年1月1日

アリソン・パーシャル

 

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全文はこちら↓

Asexuality Is Finally Breaking Free from Medical Stigma | Scientific American

サイエンティフィックアメリカン

www.scientificamerican.com

 

Confessions of a Romantic Asexual ロマンティック・エイセクシュアルの告白

 2020年1月。インドの女優、スリティ・ジャーは自らがロマンティック・エイセクシュアルであることを公の場でカミングアウトした。

 それは、ムンバイで開催された "Spoken Fest" での出来事で、スリティは、「キスやハグをされるのは好きだがセックスは何も意味をなさなかった。それをしたいと思わなかった」と語った。彼女が詩をよみ上げる動画はさまざまなソーシャルメディアで共有され話題となり、エイセクシュアルとしての葛藤を公の場で告白した勇敢な試みが称賛された。

「Confessions of a Romantic Asexual」と題されたこの詩は、感情的で情熱的だと思われてきたスリティが、エイセクシュアルであったこと、そしてそのために彼女が社会から受けてきたプレッシャーについて話している。
 また、世界中で#MeToo運動が巻き起こっていた時期についても触れている。世間が「ノー」を叫ぶ中、自らのアイデンティティを語ることに「言葉とうめき声で嘘をつくことを学んだ」と打ち明けた。詩の最後には「I am asexual, I'm not the only one」(私はエイセクシュアル。特別じゃない)と歌い、観客は彼女に声援を送った。

動画は、InstagramYouTubeで視聴できる。

 

Brut India/ Sriti Jha Narrates What Being An Asexual Is Like.2021.

以下和訳。*無断転載禁止

 

ロマンティック・エイセクシュアルの告白 / スリテ・ジャー
(Jan,2020)

——いいひとにまだ出会ってないだけだよ。
みんなそう言っていました。
えぇ、まぁ正直なところ、私はまだ数人しかめぐりあっていません。
そのときのことをお話ししようと思います。
きっとあなたは、古くて新しいなにかを発見するでしょう。

話を最初に戻します。私が初めて恋をしたときのことです。
いろいろルールがありました。手をつないだり イチャついたりするのはいいんだけど、それ以上は許されなかったんです。
問題だったのは、あるとき私がルールを破ってキスをしてしまったことです。初めてキスをしました。
それは冒険でした。
私が今まで感じたことのない魔法みたいなものを感じた。
最高のキスをしたつもりでした。 "永遠 "の意味を知った。

私はキス以上のことができるように努めました。でもその後は、リズム(オーガズム)を感じることもできなかった。宇宙のアラームが鳴り響き、誰もが初めての体験を迎える準備が整っていました。でも、私はまわりより遅くて。その体験をする準備もできていなかったし、熱望もしていなかったんです。きっとアラームを聞き逃したに違いありません。それなのに、まわりのみんながその体験について口にすると、私も負けじと参加していました。

私は恋をしつづけました。
いい時もあったし、悪い時もありました。
ただ、「その体験」については頭の中になかった。
「そのこと」は、私の呪いのように思えた。
だから、それを避け続けた。
でも結局は……実行しました。
でもそれは、うまくいかなかった。
そのたびに 自分が自分でないことを自覚しました。
だから友達に話したんです。
私に問題があると診断されました。
それから、たくさん本を読んだり、新しい男の子に会ったり努力しました。でも問題は解決されないままでした。なにひとつも。

ついに、私は安堵する時が来ました。
世界が「ノー」を突きつけて唱えたからです。
「ノー!」、「ノー!」と。
しかし、私が「ノー」と叫ぶと、「もう少しがんばったらどう?」と言われました。

「どうしてできないんだ!?」
「なんでやらないんだ!?」
「君は... やり方がわからないんだろう!」
「僕が教えてあげる」
「私が教えてあげるわ」
「ほんとにっ!? 驚いたな。 感じたことないの?」

「私だって感じたことくらいあるわよ!!」


ハグもキスも、髪を指でなぞられるたびに感じていたのに……。
それ以上ができない私はひとり取り残されました。
私は一人になってしまった。
だから、私は嘘をつくことを学んだ。
言葉やうめき声で嘘を学んだのは、傷つけたくなかったから。
失いたくなかった。
そして恋をしていた!
私は誰を選べばいいのだろう?
私を選ぶのは誰だったのか……?
誰一人似ていない人。
誰が私を選ぶの?
恋に敗れたのは誰だったのか。

そして、誰もがセックスについて話していた時代だった。
セックスの内容を学び、同意について教えていた時代。
そして私には、不満以外に何もなかったのです。

私は、私の恋人を非難しているのではありません。
彼らは偉大で素晴らしかった!
友人を非難しているのではありません!
みんな私を心配してくれました。みんな私をなぐさめ、約束を守ってくれたのです。
私はセックスをバッシングしているわけでもない。
私は自分が偉大であると主張するつもりはありません。
私は独身を祝わなし、セックスが嫌いではない。
でも……。


「好きな子がエイセクシュアルだって?」
「親が気にしない子と付き合え!」

そうなってしまうから、だからカミングアウトが必要なんです!
【愛】でなく【セックス】という言葉を使わなければいけないのは、私たち エイセクシュアルだけです……皮肉なものですね。間違いなくそう思います。

でも、やらなければならないことは、やらなければならない!
私は打ち明けることを少し簡単にする方法を見つけました。
そして、一歩前に進もうと。
ちょっと生意気に聞こえるかもしれませんが。
歌を歌うとき、口ごもることはないといいますよね。
歌いながら進めていきますので、一緒に歌ってください。
“私はエイセクシュアル”
“私だけが特別じゃない”
“私は必要な存在。今すぐ私を認めてください”

愛への道を選ぶことがこんなにも恐ろしい間違いだとは知らなかった。
私が感じたことを伝えるとすれば……とにかく心臓がバクバクしていたのです。

なぜセックスが必要なのか?
あなたはそれを言葉にできないでしょう。
でも、私は知っています。
なぜみんながセックスをしたいのか、そのどうしようもない理由が。
だからわかるんです。
私は、確かにセックスを望んでいないと。

そして、私は不完全でもなければ、劣っているわけでもないのです。
私は完全です。ただ、混乱しています。
これはとても美しい混乱ではないでしょうか?

そして、私は壊れています。私は不完全です。
しかし、これは別の意味合いを必要とします。
私が何者であるかを決めつけないでください。
私の心を変えようとしないでください。

最後に。少なくとも LGBTQIAの中で。
私はエイセクシュアルであり、アライである!
ということです。
そして、私はこの特別な日にここに来たように。
もう1度だけ歌います。
皆さんも一緒に歌ってください。
"私はエイセクシュアル "と。
(歌)
ありがとうございました。

 

Instagramの動画:https://www.instagram.com/p/CJ9EZqRhoIl/?utm_source=ig_embed&ig_rid=b0bf5b52-ecf2-4b39-8868-381c7d4b7faf 

執筆参考資料 : https://www.indiatoday.in/television/celebrity/story/sriti-jha-recites-a-poem-on-struggles-of-being-an-asexual-romantic-viral-video-1759060-2021-01-14

 

Happy ace week 2023 エースウィーク

 AVENのフォーラムでは毎年恒例で“Ace Community Survey“が実施される。同時に前前年の結果が公開される。

 ところが、先日The Ace Community Surveyチーム から届いたメールによれば、今年は調査を見送るという。実施しない理由については明記されていないが、2021年の調査結果は公表される。(全54ページ)ちなみに、2017年の調査結果のドイツ語版とスペイン語版を新たにリリースする予定だという。

 昨年も調査に参加したが、匿名によるアンケート形式となっておりかなりのボリュームがある。答えたくない質問はスキップできるが、30分くらいは回答に有した。


 前回2020年の結果について特筆すべきは、アジア圏のエイセクシュアル人口の増加、とりわけインドの人口が増加していたことだった。

 インドにはインド版AVENのような比較的規模の大きいオンラインコミュニティがある。(同サイトの説明によればAVENを模範にしたとある。)また、インドで若者に人気のある女優が、エイセクシュアルであることを野外イベントでカミングアウトして話題になった。

 Ace Community Surveyの参加人数は近年飛躍しており、端的にアジア人のなかでも特にインドの当事者が調査に参加していたという見方もできる。

注意:Ace Community Surveyチームは現在、 AVEN から独立しているが、AVEN ”PT”(プロジェクトチーム)は調査の作成と分析を担当するチームと引き続き連絡を取り合っている。

 

Happy Ace Week!

 

2年前の動画を見返す

 

メディアやマスコミなどが、エイセクシュアリティをあるひとつの狭い経験の範囲だけでまとめようとすると、エイセクシュアリティへの包括的な理解とコミュニティの正確性が損なわれることになる 

 

—デイヴィッド・ジェイ /AVEN Livestreams —July 11th.2021より

フル動画はこちら(英語)↓

www.youtube.com

Allonormativity(アロノーマティヴィティ) すべての人が性的な魅力を経験するという観念

*注意:性行為に関する記述あり

 

Allonormativity

 

「アロノーマティヴィティ」は、紛れもなくエイセクシュアルとエーススペクトラムの人々にとって弊害をもたらす社会規範である。エース・コミュニティでは、専らエースフォビア(=エイセクシュアルに対する差別的態度)としてしばしば話題にのぼる。その内容はほとんどエイセクシュアリティと相反するものだ。

また、「アマトノーマティヴィティ(後述)」という社会規範は、アロマンティックの人たちにとって抑圧の原因となる考え方である。しばしば、アロノーマティヴィティとアマトノーマティヴィティはセットで議論されている。

 

アロノーマティヴィティとは、すべての人が性的な魅力を経験すると仮定する社会思想である。この言葉は、性的魅力を経験し、エイセクシュアル・スペクトラムアイデンティティを持たない人々を表現するための用語であるアロセクシュアル(Allosexual)に由来している。(The Encyclopedia of Queer Studies in Education, edited by Kamden Strunk and Stephanie Anne Shelton, Chapter6 Allonormativity and Cmpulsory Sexuality. 1 Definitions.)

 

アロノーマティヴィティの例

・性的な体験の不足を成長の未熟や精神的な幼さとみなす。
・医療関係者が性行為の欠如を問題視する。
・性の解放とはセックスをすることであり、セックスをしないことは自分の性欲を抑圧していることになる。
・恋愛関係において、精神的な信頼や献身さよりもセックスを重視する。

 

目下のところ、アロノーマティヴィティという概念の出典は不明。後述する「アマトノーマティヴィティ」については、研究者が提唱したものだが、アロノーマティヴィティに関しては発祥が不明である。しかしながら、エースフォビアの抑圧に苦しむエイセクシュアル当事者から見た社会通念をそのように名付けた可能性が高い。したがって、エース・コミュニティ内にかぎって当事者が用いている場合がほとんどである。

 

コミュニティの中では、「アロセクシュアル(セクシュアルと同義)」という言葉が性的な人々に対する蔑視であると考え、使用を避けるエースもいる。そのような人々は、アロノーマティヴィティという用語を使わない代わりに「セクシュアルノーマティヴィティ(sexual normativity)という場合もある。実際、アロの人たちがアロノーマティヴィティという言葉を使うことはほとんどない。

 

 

 * * *

 

Amatonormativity 


アマトノーマティヴィティとは、すべての人間は愛やロマンスを追い求め、一夫一婦のような夫婦関係を維持すべきという前提が社会に蔓延していることを意味する。米国のエリザベス・ブレイク博士が、著書『Minimizing Marriage(結婚の最小化)』/2011年、で提唱した造語である。

結婚や配偶者としての恋愛が、特別な価値を持つという思い込みは、ほかの配慮すべき関係の価値を見過ごすことにつながると懸念されます。私はこのように、結婚や 恋愛関係を特別な価値のあるものとしてとらえる偏った見方と、恋愛が普遍的なゴールであるという思い込みを「アマトノーマティヴィティ」と名付けました。

Elizabeth Brake, Minimizing Marriage (OUP, 2012), Chapter 4.iii

 

ブレイク博士によれば、アマトノーマティヴィティは、異性愛を規範とする社会構造を指す「ヘテロノー マティヴィティ」をもじったものだという。ラテン語で「愛する」を意味するamatus(アマートゥス)と、社会規範を意味するnormativity(ノーマティヴィティ)を合体させた用語だ。ブレイク博士は、アマトノーマティヴィティがストレートの人だけでなく、LGBTQの人々にも影響を及ぼしていると報告している。そして、エイセクシュアルやアロマンティックの人々を差別する可能性があると報告している。


アマトノーマティヴィティの例
・誰もが結婚を望んでいて、未婚の人は不幸か孤独である。
・恋愛関係を友人関係より重要視する。
・既婚者を中心とした社会の構造(住宅、税金の軽減など)。
・職場で一定の年齢に達している人はだれでも妻か夫がいて、子供がいるか、子供を持つ予定がある。

 

 

アロノーマティヴィティとアマトノーマティヴィティがもたらす影響とは?

・エース・スペクトラムやアロ・スペクトラムの人たちは、自分を壊れていると感じたり、なにかが欠けているのではないかと思うようになる。

・性的欲求やセックスドライブ(リビドー)の欠如は、本質的に治療が必要な病気であるとみなされる。

・望まないデートやセックスをしなければならないというプレッシャーを感じるようになる。

・独身者や非伝統的な人間関係(クィアプラトニックなど)の人たちは、社会保障などから取り残されて軽視される。

 

 

上記のほかにも、さまざまな(悪)影響が考えられる。

 

最後に、この二つの社会規範の思想に対してできることはなにかをいくつか列挙。(参考:Allonormativity and Amatonormativity – Asexual & Aromantic Community and Education Club)

 

・すべての人がセックスを好んだり、ロマンティックな魅力に惹かれるわけではないことを知る。
・誰もが結婚と夫婦関係を望んでいるわけではないことを知る。
・恋愛/性的関係が人生において最も重要なものであるという前提に疑問を向けてみる。
これらの概念について啓発を推奨する。

 

 

まとめ: アロノーマティヴィティとは、誰もが性的な魅力を経験するという信念であり、アマトノーマティヴィティとは、誰もがロマンチックな魅力を経験するという信念である。

 

 


参考資料:
allonormativity-and-amatonormativity

エリザベス・ブレイク博士のHP : https://elizabethbrake.com/amatonormativity/
著書『Minimizing Marriage(結婚の最小化)』について本人が解説している動画。 https://www.wi-phi.com/videos/government-and-marriage-minimal-marriage/ 

エイセクシュアル・エリート主義

エイセクシュアル・エリート主義 とは(asexual elitism)

注意:性行為に関する言及あり。


”エイセクシュアル・エリート主義” という考え方は、エイセクシュアリティの歴史のかなり初期の頃から存在していた。様々な形で文脈に潜んでいるので一概に定義することは難しい。しかしその主張の根底に共通するものがある。それが次のようなもの。

 

『セックスをしないことは優れている。』

 

これは、性行為をするかしないかの行動面にエイセクシュアルのアイデンティティを依拠するものである。また、「性欲がなく性行為をしないエイセクシュアリティは純潔(pure)である」という主張もエリート主義の一部として捉えられている。近年では、「エースはピュアな存在」という主張はほとんど見受けられなくなった。しかし、2000年から10年くらいにわたっては「もう聞き飽きた」というほどコミュニティのあちらこちらにいたという。

 

エリート主義者たちは、“TURE ASEXUAL”とか“PURE ASEXUAL”という言葉を復唱的に用いていたという。(特にpureは、20世紀に保守的なアメリカ教会が促進した結婚前の性的厳格さ—purity culture movement.の意味合いを持っている。)


「エリート」と呼ばれるのは、エイセクシュアルの人々が、セクシュアルの人より知的であると主張する人が現れたことも関係する。セックスや性欲に意識を取られない分、精神力・集中力・注意力などにすぐれて知能が高いという根拠のない意見だ。(これに「ノーベル賞受賞者のほとんどが、エイセクシュアルではないことを念頭においてくれ」と反論しているエースがいた。)

 

 

 

AVENはエイセクシュアル・エリート主義に反対している

 

一時期のエリート主義の台頭は、エイセクシュアル・コミュニティの発展とともに顕著となった。エイセクシュアル・コミニティの歴史をさかのぼると、AVENが設立する以前に大きなグループだったのは、「公式Aセクシュアル協会」というコミニュティサイト。このサイトは、メンバーになるために適正テストが必要だった。後に、「公式ノンリビドー派協会」と改名されたが、活動中はエリート主義の典型だったといわれている。公式ノンリビドー派協会とAVENのAセクシュアルに対する立場の対立は早くからあり長年続いていた。AVEN設立直後、すぐにフォーラム内ではAセク・エリート主義的な人々がちらほら現れ、次第にそれは、物議を醸し始めた。AVENは、エリート主義者を取り締まっていなかったが、「アンチ・セクシュアル的態度をとるエリート主義者の発言は性的な人々を蔑視している」と警告していた。
最終的に、AVENはエリート主義をフォーラム内で共有しないことを宣言。エリート主義的な書き込みは明確に禁止されている。公式ノンリビドー派協会について、現在は活動していない。(組織解体されたかは不明)

AVENのメンバーの見解では、エリート主義的な態度を示す人々は、性的指向と行動を混同していたという。セックスをしないこと、性欲がないことはエイセクシュアルの定義にはならない。エースの中には、身体的な快感をえるためにセックスをする人もいる。性行為をしたとしても、その人はエイセクシュアルのままである。
『エイセクシュアルの人々は、どの性別にも性的な魅力を感じない。』そのことだけがアイデンティティに依拠する。また、エイセクシュアルかどうかは、各自が判断することのはずで、イデオロギーや他人の観察によって判定されるべきものではない。

 

 

参考資料:
https://www.asexuality.org/en/topic/51411-what-is-asexual-elitism-and-why-does-aven-discourage-it/ 

 

エイセクシュアル(アセクシュアル)のネット小説(日本)

エブリスタで公開中のエイセクシュアルのキャラクターが主人公のネット小説『ロマンティック・アセクシュアル』。執筆参考資料にAVENの記述あり。作中でエースは「無性愛者」と呼ばれている。(118,152文字、読書時間目安3時間)

 

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