*注意:性行為に関する記述あり
Allonormativity
「アロノーマティヴィティ」は、紛れもなくエイセクシュアルとエーススペクトラムの人々にとって弊害をもたらす社会規範である。エース・コミュニティでは、専らエースフォビア(=エイセクシュアルに対する差別的態度)としてしばしば話題にのぼる。その内容はほとんどエイセクシュアリティと相反するものだ。
また、「アマトノーマティヴィティ(後述)」という社会規範は、アロマンティックの人たちにとって抑圧の原因となる考え方である。しばしば、アロノーマティヴィティとアマトノーマティヴィティはセットで議論されている。
アロノーマティヴィティとは、すべての人が性的な魅力を経験すると仮定する社会思想である。この言葉は、性的魅力を経験し、エイセクシュアル・スペクトラムのアイデンティティを持たない人々を表現するための用語であるアロセクシュアル(Allosexual)に由来している。(The Encyclopedia of Queer Studies in Education, edited by Kamden Strunk and Stephanie Anne Shelton, Chapter6 Allonormativity and Cmpulsory Sexuality. 1 Definitions.)
アロノーマティヴィティの例
・性的な体験の不足を成長の未熟や精神的な幼さとみなす。
・医療関係者が性行為の欠如を問題視する。
・性の解放とはセックスをすることであり、セックスをしないことは自分の性欲を抑圧していることになる。
・恋愛関係において、精神的な信頼や献身さよりもセックスを重視する。
目下のところ、アロノーマティヴィティという概念の出典は不明。後述する「アマトノーマティヴィティ」については、研究者が提唱したものだが、アロノーマティヴィティに関しては発祥が不明である。しかしながら、エースフォビアの抑圧に苦しむエイセクシュアル当事者から見た社会通念をそのように名付けた可能性が高い。したがって、エース・コミュニティ内にかぎって当事者が用いている場合がほとんどである。
コミュニティの中では、「アロセクシュアル(セクシュアルと同義)」という言葉が性的な人々に対する蔑視であると考え、使用を避けるエースもいる。そのような人々は、アロノーマティヴィティという用語を使わない代わりに「セクシュアルノーマティヴィティ(sexual normativity)」という場合もある。実際、アロの人たちがアロノーマティヴィティという言葉を使うことはほとんどない。
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Amatonormativity
アマトノーマティヴィティとは、すべての人間は愛やロマンスを追い求め、一夫一婦のような夫婦関係を維持すべきという前提が社会に蔓延していることを意味する。米国のエリザベス・ブレイク博士が、著書『Minimizing Marriage(結婚の最小化)』/2011年、で提唱した造語である。
結婚や配偶者としての恋愛が、特別な価値を持つという思い込みは、ほかの配慮すべき関係の価値を見過ごすことにつながると懸念されます。私はこのように、結婚や 恋愛関係を特別な価値のあるものとしてとらえる偏った見方と、恋愛が普遍的なゴールであるという思い込みを「アマトノーマティヴィティ」と名付けました。
Elizabeth Brake, Minimizing Marriage (OUP, 2012), Chapter 4.iii
ブレイク博士によれば、アマトノーマティヴィティは、異性愛を規範とする社会構造を指す「ヘテロノー マティヴィティ」をもじったものだという。ラテン語で「愛する」を意味するamatus(アマートゥス)と、社会規範を意味するnormativity(ノーマティヴィティ)を合体させた用語だ。ブレイク博士は、アマトノーマティヴィティがストレートの人だけでなく、LGBTQの人々にも影響を及ぼしていると報告している。そして、エイセクシュアルやアロマンティックの人々を差別する可能性があると報告している。
アマトノーマティヴィティの例
・誰もが結婚を望んでいて、未婚の人は不幸か孤独である。
・恋愛関係を友人関係より重要視する。
・既婚者を中心とした社会の構造(住宅、税金の軽減など)。
・職場で一定の年齢に達している人はだれでも妻か夫がいて、子供がいるか、子供を持つ予定がある。
アロノーマティヴィティとアマトノーマティヴィティがもたらす影響とは?
・エース・スペクトラムやアロ・スペクトラムの人たちは、自分を壊れていると感じたり、なにかが欠けているのではないかと思うようになる。
・性的欲求やセックスドライブ(リビドー)の欠如は、本質的に治療が必要な病気であるとみなされる。
・望まないデートやセックスをしなければならないというプレッシャーを感じるようになる。
・独身者や非伝統的な人間関係(クィアプラトニックなど)の人たちは、社会保障などから取り残されて軽視される。
上記のほかにも、さまざまな(悪)影響が考えられる。
最後に、この二つの社会規範の思想に対してできることはなにかをいくつか列挙。(参考:Allonormativity and Amatonormativity – Asexual & Aromantic Community and Education Club)
・すべての人がセックスを好んだり、ロマンティックな魅力に惹かれるわけではないことを知る。
・誰もが結婚と夫婦関係を望んでいるわけではないことを知る。
・恋愛/性的関係が人生において最も重要なものであるという前提に疑問を向けてみる。
・これらの概念について啓発を推奨する。
まとめ: アロノーマティヴィティとは、誰もが性的な魅力を経験するという信念であり、アマトノーマティヴィティとは、誰もがロマンチックな魅力を経験するという信念である。
参考資料:
allonormativity-and-amatonormativity
エリザベス・ブレイク博士のHP : https://elizabethbrake.com/amatonormativity/
著書『Minimizing Marriage(結婚の最小化)』について本人が解説している動画。 https://www.wi-phi.com/videos/government-and-marriage-minimal-marriage/